省エネ基準義務化が白紙撤回!時代に逆行する決定の理由は
2019.2.19
住宅の省エネ基準が、2020年から義務化される・・・この流れは、真剣に家を建てようと考えている方ならたいていの方がご存知だったはず。
ところが2018年年末、突然これが「基準の義務化」ではなく「説明すればOK」に変更されるという、驚くべきニュースが飛び込んできました。
今回はその変更内容の解説と、なぜそうなったかという裏事情、私たちにできる対策についてご説明していきます。
かしこい消費者として、決定の裏に隠された業者や行政の本音を知っておくことは大切。
大切なわが家、大切な資金ですから、「こうすればよかった」「ムダなことに使ってしまった」と後悔することのないよう、しっかり自衛していきましょう。
住宅は省エネ基準を満たさなくていいの?
政府はこれまで、「新築住宅などへの省エネ基準義務化を2020年までに段階的に進める」としてきました。
ところが今回、2020年以降の適合を義務付けたのは、オフィスビルやホテル、商業施設など住宅を除く新築の中規模建物(延べ床面積300平方メートル以上2千平方メートル未満)だけ。住宅や小規模建物(同300平方メートル未満)については、義務化が見送りになったのです。
その理由は、「住宅や小規模建物は、現状、省エネ基準への適合率が低いから」でした。
今のところ、住宅や小規模建物は適合割合が5〜6割ほど。
省エネ基準に合わせるためには、断熱窓やLED照明などの設備を整えなくてはならないため、義務化してしまうと建築主への負担が増え、住宅投資へのマイナス影響が起こり得る、いうのが表向きの理由です。
中規模建物については、省エネ基準への適合率が現状で9割を超えているため、実際に義務付けたとしても影響が少ないとのこと。
住宅や小規模建物への義務化を見送った代わりに、建築士に対して、建築主に建物が省エネ基準に適合しているかどうかの説明は義務にする方針だということです。(日経新聞2018/12/24)
これでは、「20年前の基準ですら満たしていない建物(住宅)を建ててもまったく問題ない」と国が認めているようなもの。なぜこんなことが起きてしまったのでしょうか?また、住宅は省エネ基準を満たさなくてもいいものなのでしょうか?
なぜ規制緩和?行政の言い分は
このような判断に至った理由として、表向きの国土交通省の見解を見てみると、だいたい下記のような内容にまとめることができます。
1「適合率が低いままで義務化すると市場の混乱を引き起こすから」
2「建築主に効率性の低い投資を強いることになるから」
3「省エネ基準などに習熟していない事業者がたくさんいるから」
4「申請者、審査者ともに必要な体制がまだ整っていないから」
5「住まい方でエネルギー消費量は変わるから」
6「デザインに制限がかかると、一部のデザイン建築家がやりにくいから」
一つひとつ詳しく見ていくと、まず1の「市場の混乱を避ける」という理由からは、消費税引き上げと時期が重なるため、そのタイミングを避けたい狙いが見て取れます。
2の「効率性の低い投資」というのは、大きな商業ビルなどに比べ、戸建て住宅はもともとエネルギー消費量も少ないため、ここをがんばって省エネしても、全体に占める割合は少なく効率が悪い、ということ。しかしだからといって、戸建て住宅を省エネの流れから置き去りにしていいものでしょうか?
住宅の高性能化は、単にエネルギー効率だけの問題ではなく、住む人の健康を守るという点でもとても重要です。たとえば、家の寒さが大きな要因となる「浴槽内での事故」は、3,205人(1999年)→5,941人(2017年)と、昨今も増加傾向が続いています。
こうしたデータを見ても、政府は省エネ基準をきちんと義務化し、国民の命を守る施策を打っていくべきでしょう。
3や4に関しては、事業者や行政など、関係者が必要な体制を整えればいいだけのこと。家を建てようとしている消費者からすれば、まったく関係のないことです。彼らの都合がつくまで待っていたら、いつになるかわかりません。
5や6に関しては、多様な家づくりをしたいという業界の要望を配慮した形です。断熱性、気密性を重視しないローコスト住宅を得意としているパワービルダーや建売業者は、このニュースにさぞやホッとしていることでしょう。
こうして見てみれば、どれも義務化しなくていい理由にはなりえません。
本当の理由は、消費増税と重なるタイミングを避けたい思惑と、業界の根強い反対に配慮しただけのことに思えてならないのです。
「省エネ住宅は高い」「消費者に負担」はウソ
数字的にも根拠がない
行政の見解では、「省エネ住宅にすると家の価格が上がる」と言っていますが、すでに高断熱を標準にして取り組んでいる、意識の高い住宅会社もかなりあります。
そうした事業者にとっては、それほどのコストアップをすることなく、高断熱住宅を供給することが可能です。
さらに、省エネ基準を満たした住宅なら、住んでからの光熱費をかなり抑えることができます。
仮に追加でかかるコストを全額住宅ローンで組んだとしても、35年間のローン支払い額よりも、光熱費削減額のほうが大きくなることが計算できます。
つまり、建築費が多少割高になったとしても、省エネ性能の高い家の方が、長い目で見てお得ということ。
詳しい計算の内容はこちらのコラムをご参照ださい。
>リンク:「ZEHの費用対効果は?長く住むほどお得になる理由」
消費者の意向は無視されている?!
なにより、この件で最も影響が出るのは消費者。そして住宅購入予定者のほとんどは、省エネ基準に適合した家が欲しいと考えています。
今回の決定は、その事実に逆行した、消費者不在の決定だと言わざるをえません。制度の影響をこうむる張本人だというのに、その声がまったく反映されていないというのは、どういうわけでしょうか。
こうなってくると残念ながら、もはや「国の基準を満たした家だから安心で間違いない」と単純に考えることはできなくなりました。
これからは、家の性能に関しても業者や制度まかせではなく、自ら考えて選びとることがより大切になってくるでしょう。
まじめな事業者、消費者の声に耳を傾けるべき
もちろん、政府が新たな制度を作ろうとする際、事業者側の意見を取り入れるのは大事なことです。
ただし、20年近くも前に制定された基準すらキャッチアップできていない、少数派の事業者ばかりに偏っているようでは困ります。
同業者の目からみれば、こうした事業者は不勉強で怠慢であるといわざるをえません。
大多数のまじめな事業者は、気候変動などの国際問題にまじめに取り組み、省エネ住宅をつくるための技術と経験を積み上げています。政府は偏りのない声を真剣に集めて、しっかりと制度に反映するべきです。
残念ながら今回の決定は、省エネにまじめに取り組もうとしてこなかった業者を擁護するもの。
「省エネは結局、住む人の意識次第ですからね」
「そんなに省エネにお金をかけなくても、これでじゅうぶん国の基準は満たせますよ」
「省エネにこだわると、効率悪いですよ」etc・・・
怠慢な業者がこうした営業トークがあちこちで繰り広げるのかと思うと、まじめに省エネに取り組んできた工務店として大きな不安を感じます。
住む人の健康面、お金の面でのベネフィットを考えても、省エネ基準義務化の事実上の撤回は、なんとか考えなおしてほしいと切に願うばかり。
これから家を建てようと考えているなら、不勉強な業者の言うとおりにして建てた後に後悔しないよう、しっかりと知識をもって対抗してください。
ぜひ、まじめに温熱環境の向上に取り組み、研鑽を積んでいる業者を選ばれることを、強くおすすめします。